2000年6月  
資料提供 トーマスD.フェイ博士
翻訳編集 
S&F MAGAZINE


 ”ラクティック・アシッド(乳酸)と上手く付き合う方法”


私は毎学期エクササイズ・フィジオロジーを専攻する生徒に”ラクティック・アシッド(乳酸)の良い点を何があげられる?”と尋ねます。 すると決まって”な〜んにも無いッ!”という返答がかえってきます。 彼等の意見では、 ”筋肉痛、痙攣、疲れ、ケガを起こす悪玉なので、何とかして避けたいもの”という事で一致しています。 そんな彼等に私はこう話します。
「ラクティック・アシッドは君等が考えてるものとは大違いだぞ、実際ラクティック・アシッドは有る意味で運動中エネルギーを作り出す重要な役を果たすんだ。 ラクティック・アシッドは炭水化物の体内での利用を助け、肝臓でグリコーゲンとグルコースを作る材料にもなるんだぞ」と。

乳酸が体内で造られると、ラクテイト・イオン(lactate)とハイドロジェン・イオン(水素イオン)に分かれます。 ハイドロジェン・イオンは乳酸の酸の部分で、筋肉を動かす神経の伝達を妨げ、エネルギー摂取の効率を下げ、筋力すら低下させます。 運動中筋肉が張って焼けるような感覚になるのはハイドロジェンの仕業です。 ですから批難するなら、乳酸ではなくハイドロジェン(水素イオン)にすべきなのです。
一方ラクテイトは素早いエネルギー供給性の為体に好まれ、心臓や体の筋肉に使われます。
 ラクテイト(乳酸)はフットボール選手、トライアスロン選手、長距離ランナー、水泳選手、競輪選手、ウエイトリフター等にとって友達です。 恐らく乳酸について理解を深めると、今までと全く違うイメージを持つ事になるでしょう。 ここでは乳酸を上手く使って、疲れずにエネルギーレベルを高める秘訣を紹介したいと思います。

乳酸とは;
乳酸はグルコース(ぶどう糖)が分解されると作られます。 グルコースは又の名を血糖と呼ばれ、体のメインエネルギー源とし、脳や神経の正常機能の他、激しい運動にも必要不可欠とされます。 又ぶどう糖は分解されると、ATP(adenosine triphosphate)が作られます。
ATPは体内での科学変化を起こすのにエネルギーとして使われ、ATPのレベル次第でどれだけ長く筋肉を使う事が出来るかが決まるのです。 
乳酸は生産される時酸素を必要としない故、無酸素代謝(アナロビック・メタボリズム)と呼ばれ、この事から多くの人は血液が充分な酸素を筋肉に供給しない時に乳酸が生産されると考えてきました。 例えば短距離走者やパワーリフタ−等息を止めてパフォーマンスするような運動状態時です。 ところが研究者は、充分血液が酸素を供給している時でも筋肉内で乳酸が作られる事実を発見しました。
この研究で明らかになったのは、乳酸が筋肉中で生産されるスピードが、血液で除去されるスピードを上回っていたという事です。 つまり、乳酸は筋肉内における、血液による酸素供給があるなしに関係なく、生産され続けるという事です。

ATP
乳酸の生産に伴うATPの生産量は少ないものの、非常に素早く作られます。 その為体は、50%以上の強度で運動する時にATPをエネルギー源として利用します。 しかし休憩中や強度の弱い運動中、体は脂肪をメインエネルギー源とします。 一方50%程度の強度で運動した時は、体は炭水化物をメインエネルギー源とするのです。 炭水化物はエネルギーとして使われれば使われる程、乳酸が生産されます。

炭水化物は消化され、ぶどう糖という形で血液で運ばれ、肝臓でグリコーゲンに変換されるのですが、殆どの食事から得られた炭水化物はぶどう糖のまま直接筋肉へ運ばれます。 そして筋肉で乳酸に変換されるのです。 その乳酸は再び血液に乗り、肝臓まで戻り、再びグリコーゲンを作る材料となるのです。 実際殆どのグリコーゲンは血中のぶどう糖からでなく、乳酸から肝臓は作るのです。 (非常にややこしい)

乳酸値
体の筋肉は常に乳酸を生産し、同時にエネルギーとしても使用しています。 血中の乳酸値は、筋肉の乳酸生産量と消費量のバランス次第で上がったり下がったりします。 因みに乳酸の生産量は、炭水化物の摂取量に比例します。 摂取された炭水化物の 殆どは乳酸に変換され、その後同じ細胞内で使われるか、もしくは血液に乗って他の必要とされる細胞へと運ばれます。
激しい運動を開始すると一時的に乳酸が筋肉に溜まります。 これは乳酸がそんなに早いスピードで消費されないからです。 そのような場合運動を中断したり休憩をとれば、生産に消費が追い付く、もしくは血液により除去されるのです。 

乳酸優先利用
心臓や遅筋、呼吸に使う筋肉は、運動中乳酸をエネルギー源として好みます。 例えば心臓の場合、運動が激しくなるに連れて乳酸の消費量が増えます。 ところがぶどう糖の消費量は運動量に関らず常に一定なのです。 又乳酸は素早いエネルギー補給を可能にしてくれる、運動する人の”友”なのです。 炭水化物が豊富な食事の後は、血中の乳酸値と血糖値が両方上がります。 しかし乳酸値はそう大きくは上がりません。 なぜなら素早く血中から除かれ、優先的に使われるからです。 又それと同時に、体は血中の血糖(ぶどう糖の事)を、非常にゆっくり乳酸に変換するのも他の理由です。 
血中に大量にぶどう糖が溢れると(血糖値が上がる事)、インシュリンが分泌され、ぶどう糖が筋肉へ供給されるのをブレーキをかけます。 運動中このような事になっては困ります。 それが理由にぶどう糖は素早く乳酸に変換され、エネルギーとして優先的に使われるのです。 

ところでなぜ乳酸は新陳代謝をする上で重要なのかは未だ定かでは有りません。 しかし生理学的な理由は幾つかあげられます。
1.乳酸はぶどう糖や他のエネルギー源と比べ、物質のサイズが小さい為、細胞間を素早く移動しやすい点。 2.乳酸は大量に筋肉内で生産でき、血中に放つ事で全身に送る事が出来る点です。 残念ながら筋細胞内に貯蔵されたグリコーゲンは、ぶどう糖という形に変換し、血中に放つという事は出来ないのです。 その理由は筋肉には酵素が存在し
ないからです。

乳酸と疲れ
”体が燃えるまでガンバレッ!(Go for the burn!)”とエアロビのインストラクターが良く言いますが、昔ながらの意見では、乳酸は激しい運動をすると筋肉が熱く焼けるような感じにさせ、疲れさせるというものです。 それはある意味で正解です。 それは先にも述べたハイドロジェン・イオン(水素イオン)が筋肉の収縮とエネルギーの供給の邪魔をするのです。  又筋肉中の乳酸値のレベルは、血液を全身に分配する役割を果す神経機能にとって重要な目安となっています。 もし酸素の供給に限界があると機能が判断したら、血液を筋肉に送る量を制限し、筋肉を疲れさせ、ブレーキをかけます。 これは神経機能が、あなたの脳や心臓が酸欠状態にならないように自主制御しているからです。

持久力を問うマラソンやトライアスロンを行っている最中は、乳酸が筋肉でどんどん生産されるにも関らず、血中の乳酸値は一定です。 それは恐らく乳酸の生産量と消費量が一致しているとみられます。 
通常レースを開始した直後、筋肉はぶどう糖と筋細胞内のグリコーゲンを大量に消費します。 こうして炭水化物が代謝されると同時に、乳酸が筋肉内で発生します。 それが結果的に血中の乳酸値を上げます。 体は血液を筋肉に送り込み、筋肉内の乳酸を除去し、全身に乳酸をエネルギーとして拡散します。 こうして体は筋肉内にも血中にも乳酸値を抑えるという方法をとっているのです。 また運動中に心地よさを感じる事が有りますが、これを”セコンド・ウイング(超回復)”と呼びます。 
研究で明らかになっているのは、運動中酸素消費量がそう対して増えてないにも関らず、運動できるのは、乳酸の生産と除去するプロセスを体が休息時の300−500%の勢いで行われるからだそうです。 これが理由に心地よさを感じるのです。

肉痛と痙攣
乳酸は筋肉痛や痙攣を起こす原因では有りません。 運動による筋肉のダメージや炎症が遅れてやって来る、筋肉痛が原因なのです
殆どの痙攣は、筋肉疲労により筋肉をコントロールする神経が過敏になる事から来ています。 多くのスポーツ選手は筋肉痛をとる為に、マッサージや熱いお風呂に入り、乳酸を早く除去しようと試みます。 実際これらは別の理由で役立っているのでしょうが、乳酸は古い天ぷら油のようにいつまでも筋肉中に残るものでは有りません。 乳酸は運動中も後も、エネルギー源として素早く消費されているのです。

乳酸と上手く付き合ってトレーニングをする
カリフォルニア大学バークレイ校で統合生物学(integrative biology)を教えるジョージ・ブルックス(George Brooks)教授は、”ラクテイト・シャトル・セオリー(lactate shuttle theory)”という本を執筆し、その中で乳酸が炭水化物を代謝した際の役割や、新陳代謝を行う上で乳酸が重要なエネルギー源となる事を説いています。 
ブルックス教授とインタビューを交えた際、”乳酸は厄介者扱いされがちですが、この物質と上手く付き合う方法を身に付ければ、より運動を激しく長くする事が可能になり、肉体を激しく使うスポーツ選手にとって成功の鍵を握る事になるのです”とお話されていました。

乳酸を素早く筋肉から除去するのを促進させるトレーニングとは、強度の強い運動と長距離トレーニングを組み合わせれば有効です。  幸い殆どのトレーニングプログラムには、それらを促進する要素が含まれています。

乳酸の生産と除去プロセスは、走ったり自転車に乗ったり、水泳をしたりするとスピードが上がります。 乳酸を運動中エネルギー源として使う能力を高めたければ、乳酸を充分体内に充満させなくてはなりません(この事からスポーツドリンクには乳酸が重要な成分として含まれています)。 又運動時に乳酸が豊富にあると、乳酸をエネルギーに還元する、酵素の分泌を促進するのです。

スポーツ選手は筋肉が焼けるよな痛みに慣れる事を学ぼう
激しいインターバル・トレーニングは循環器機能を高め、酸素をより効率良く体の隅々まで運んでくれます。 また血液の循環を高めると、乳酸を体中に分散しやすくもなります。

長距離運動は筋肉から乳酸を除去するスピードを高める効果が有ります。 ジョギングや水泳やサイクリング等、長距離に亘る運動をすると、毛細血管を発達させ、筋肉内のミトコンドリアの機能を高めます。 大きな筋肉内のミトコンドリアは、エネルギー源を乳酸よりも脂肪酸から得る傾向にあります。 つまり乳酸をあまり生産しないで済むのです。 又大きな筋肉中のミトコンドリアは、乳酸を除去するスピードを促進する事も知られています。 この事から筋肉内に乳酸が溜まり、運動能力が低下するという事を防ぐ方法が学べると思います。

栄養
栄養補給も大事です。 激しく筋肉を使う運動は、筋肉内と肝臓内に貯蔵されているグリコーゲンを枯渇します。 ですから持久力を問う運動をする人は意識的に炭水化物[もしくはアミノ酸(BCAA)]を多目に摂りましょう。 

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